演目紹介 【演目紹介・2023年】
安倍晴明入唐伝(あべのせいめいにゅうとうでん)
平安時代、 陰陽師安倍晴明は帝の勅命を受け、 中国大陸に渡り、陰陽の道を極める伯道上人に師事する。晴明は修行の末、陰陽道の奥義書「文殊裏書陰陽内伝集(もんじゅのうらがきいんようのないでんしゅう)」を授るが、かねてより晴明に術比べで劣り、恨み募る蘆屋道満(あしやどうまん)の謀略により、奥義の内容を写し取られ、直後の対決により晴明は命を奪われる。
師である伯道上人の温情で、「生活続命法(しょうかつぞくみょうのほう)」の術により蘇った晴明は、師の加護を受け、 再び道満と対決し、秘術を駆使した激戦の末、見事勝利する。
令和元年、亀山社中20周年を記念し、制作発表した創作演目。当社中が大切に保持する演目「貴船」に登場する阿倍晴明の陰陽師としての由縁を、蘆屋道満との対決を元に描き、讃えるものである。

塵 輪(じんりん)
第14代天皇、帯中津日子命「仲哀天皇」が、異国より日本を我が物にせんと攻め来た数万騎の軍勢の頭、塵輪を天皇自ら家来の高麻呂を従え、天の鹿兒弓、天の羽々矢をもって退治したという神楽である。この塵輪は身に翼を背負い、色は赤く黒雲に乗って天地を自在に飛び回る大鬼だったという。
石見神楽の能舞の中では、「八幡」と並び基本の鬼舞とされ、悪い鬼が退治される善悪の明快な演目です。4人の激しい激闘はもちろんのこと、ゆったりとした天皇主従の神舞、天皇と別れ天空の鬼を探す高麻呂の舞、俊敏な白鬼、重厚な赤鬼の舞など見所が多い、石見神楽の中でも定番の演目です。

恵比須(えびす)
島根県美保関(みほのせき)町、美保(みほ)神社のご祭神で漁業、商業の祖神として崇拝される八重(やえ)事代主命(恵比須の大神)が、美保の岬において鯛釣りを楽しむ様を舞ったものである。
事代主命は、出雲大社のご祭神、大国主命(おおくにぬしのみこと)の第一の皇子で、大変釣りの好きな神様であったといわれている。
恵比須の鯛釣りの場面のみの舞が舞われることが多いが、本来は、旅人が、美保神社を参詣し、宮人が神社の祭神の縁起を語り聞かせ、そのご神徳を述べる部分が前段にあり、福神として崇められる故を物語る風流な神楽です。

鈴鹿山(すずかやま)
平安初期、伊勢国と近江国に跨がる鈴鹿山に鬼が立てこもり、庶民を苦しめているのを聞き、人皇50代桓武天皇の勅命により坂上田村麻呂が退治に向かった。里人の翁より観音菩薩の護身徳を受けた神通の弓矢を授かり、鈴鹿山へ登り鬼と対峙する。手下の鬼どもを次々と退治するが、鬼神大嶽丸(おおたけまる)は、天災を扱い黒雲に身を覆い、目に見えないため悪戦苦闘する。神通の弓矢を放つとその加護により霧が晴れ、見事鬼神を討ち取った。都に戻った田村麻呂はその後の功績により征夷大将軍と上り詰めた。
石見神楽の原典である、六調子から伝わる演目「鈴鹿山」を、亀山社中独自のアレンジで再構成。沢山の鬼が登場し、舞台上を圧巻すること間違いなし。一際大きい田村麻呂の面は、石見西部の様式を取り入れたもので、大嶽丸との大きい面同士の迫力の対決も見逃せない。

八 衢(やちまた)
天孫降臨の神話を神楽化したもので、八衢とは天上での天降りの途中で、道が多方面に分かれた所を指している。天孫邇々芸命(てんそんににぎのみこと)が天降りされようとするとき、道をふさぐ神があったので、天宇津女命に問わせると猿田彦神で、天孫を先導するために出迎えに来たと言う。問答の末、猿田彦神は天宇津女命より広矛を受け、天降りを先導し、筑紫の日向(ひむか)の高千穂にと天孫を誘う。
大国主命の国譲りに続く物語。猿田彦(佐太の大神)は、これによって、道しるべの神として奉られている。
経津主命と大国主命の国譲りの演目「鹿島」に続く物語で、高天原の神が猿田彦神の道導に従い日本へと降り立ち、初代神武天皇誕生へと向かうその繋ぎの部分を描いた演目。天宇津女命は表現の豊かさや佇まいの妖艶さから「芸能の神」、猿田彦神は迷い無き道へ誘う「道導の神」として、祀られている。

頼 政(よりまさ)
平安時代の末、幼くして即位された近衛(このえ)天皇のころ、天皇は毎夜丑(うし)の刻になると、もののけに悩まされた。勅命を受けた弓の名人源頼政は一族の猪早太(いのはやた)とともに東三条の森へもののけ退治へ向かう。やがて、夜がふけ月夜を怪しい黒雲が覆った。もののけの気配を感じた頼政が八幡(はちまん)大菩薩と念じ弓を放つ。確かな手ごたえがあり、すかさず早太がとどめをさした。雲が晴れ月明かりに照らされた、そのもののけの姿は、頭は猿、体は牛、手足は虎、尾は蛇の姿をした怪物だった。また、その鳴き声は鵺(ぬえ)に似ていたという。見事怪物を退治した頼政は、天皇より左大臣藤原頼長を介して、剣を授けられる。平家物語、源三位(げんざんみ)頼政の鵺退治伝説を神楽化したものである。
藤原頼長が登場し、源頼政へ勅命を伝えるシーンから始まるなど、亀山社中オリジナルのストーリーで再編成されており、ユニークな猿や、妖怪鵺の象徴的な登場シーンを始め、様々な趣向が組み合わされた演目。戦果を頼長に報告し、互いに歌を詠み合うシーンは、心に染みる名シーン!

大 蛇(おろち)
自らの悪行により高天原(たかまがはら)を追われた須佐之男命(すさのおのみこと)が、出雲の国斐の川(ひのかわ)にさしかかると、老夫婦に出会う。夫婦には八人の娘がいたが、毎年現れる大蛇に娘をとられ、残る奇稲田姫(くしいなだひめ)もやがて大蛇にとられる運命にあるという。命は、老夫婦に毒酒を用意させ、それを飲み酔い臥した大蛇を見事退治する。このとき大蛇の尾から出た剣を天村雲剣(あめのむらくものつるぎ)と名づけ、天照大御神(あまてらすおおみかみ)に献上し自らの悪行を改める。剣は後に日本武尊(やまとたけるのみこと)により草薙剣(くさなぎのつるぎ)と改名、三種の神器の一つとして熱田神宮に祀られる。
島根が舞台の神話で、石見神楽の代名詞とも言うべき神楽。そのスケール感は他に類を見ず、浜田での提灯蛇胴の開発により神楽界に一大革命を起こし、日本を代表する伝統芸能として、世界に招聘される。